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転写―遺伝情報を取り出すしくみ―(6月2日)

プログラム担当研究室

 生物は、生命活動に必要な情報をゲノム中に保有しています(そのような情報を"遺伝情報"と呼びます)。ゲノムとは複数の染色体DNAの集合体ですが、個々の染色体DNAは、4種類のヌクレオチド(A, G, C, T)が数万ー数億個程度鎖状に連結した構造体であり、それがヒストンタンパク質に巻き付き、場合によってはさらにコンパクトに折りたたまれることによって細胞の核内に収納されています。生物は、このゲノムDNAの中から、特定の生命活動に必要な遺伝情報のみを適切なタイミングでRNAという別の分子に変換して利用しています。この変換過程が「転写」(実際にはコピーに近い反応です)であり、「転写」の量・時間・空間的な制御を「転写制御」と呼びます。「転写制御」は、主に転写開始段階で行われますが、1上流配列と2コアプロモーターの機能的相互作用(図1)によって具体的な実行プログラムが決定されると考えられています。1については研究が進んでいますが、2についてはまだほとんど研究が行われていません。そこで今回は2の役割を皆さんに考えていただくための実験コースを準備しました。コアプロモーターの代表的な構成要素であるTATA配列をランダム化し、その結果生じる変化を観察し、変化した理由を皆さんとともに考えることで、「転写制御」のしくみを探ってみたいと思います。

出芽酵母のCYC1遺伝子のTATA配列付近を増幅し、配列の解読をしましょう

 出芽酵母は、染色体DNA中に外来遺伝子を容易に組み込むことができるため、転写制御の研究によく用いられる生物です。ここでは出芽酵母のエネルギー生産に働く電子伝達系の構成因子シトクロームCをコードするCYC1遺伝子のコアプロモーター(TATA配列)に変異を入れて、その強度がどうなるかをレポーター遺伝子の発現量を測定することによって調べます。本実験では、あらかじめTATA配列にランダムに変異を導入した株を用意してあるので、実際にどんな配列に変わっているかを、その部分をPCR増幅し、DNAシークエンサー(図3)を用いて配列を解読することにより調べます。



図1:シトクロームC遺伝子(CYC1)の転写制御
A)出芽酵母のエネルギー生産の酸素による制御。主要な糖源であるグルコースはまず解糖系によりピルビン酸へと代謝される。嫌気条件では転写因子HAP1の補酵素であるヘムが作られず、CYC1などの電子伝達系の因子が合成されない。そのため電子伝達系よりもエタノール発酵がエネルギー生産の中心となる。逆に好気条件ではヘムが合成され、電子伝達系の因子の合成も上昇するため、本系のエネルギー生産への寄与は大きくなる。この時、ピルビン酸がTCA回路に取り込まれ、回路が回る間に、NADH、NAD(P)Hなどが合成され、それが電子伝達系に渡され、ATPの合成に用いられる。
B)嫌気培養時には、HAP1のDNA結合は阻害され、転写は低く抑えられている。一方、好気培養時にはヘムが合成され、HAP1に結合すると、HAP1が上流活性化配列に結合できるようになり、その働きによりメディエーター/基本転写因子群/RNAポリメラーゼIIなどからなる転写開始前複合体をコアプロモーター上に形成させることが可能となり、転写が活性化する。
C)今回の実験の概要。

レポーター遺伝子の発現量を測定してみましょう

 レポーター遺伝子とは、目的とするプロモーターの下流に連結し、レポータータンパク質の発現量に基づき、本来の転写量を見積もることができるように工夫された特別な遺伝子です。当研究室では、数千個/日のサンプルにも対応可能なハイスループット型レポーター遺伝子を新たに開発することに成功しました。今回はこのレポーター遺伝子を用いて、TATA配列に導入した変異の効果を調べていただきます。
最後に、TATA 配列の変化と、転写量に及ぼす影響との関係について考えてみることにします。


図2:レポーター遺伝子による転写量の測定
マイクロプレートの各穴に酵母株を自動植菌し、一定時間培養後に染色操作を行い、染色の度合い(青色の濃さ)を器械で測定します。

導入された変異(塩基配列)を調べてみましょう

本実験ではGAL1遺伝子のTATA配列にランダムに変異を導入します。TATA配列に導入される変異については、DNAシークエンサーという器械(図3)を用いて調べていただきます。そして最後に転写量に及ぼす影響との関係について考えてみることにしたいと思います。




図3:DNAシークエンサーによる変異の同定
A) DNAシークエンサー(内部)  B) 決定した塩基配列(例)