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HOME  > 研究成果  > 専攻NOW  > 第4回 大野博司教授

第4回 腸管免疫系の仕組みについて研究をしている免疫生物学研究室の大野博司教授

生体超分子科学専攻に所属する皆さんにスポットを当ててインタビューし、専攻の今をリアルタイムでお伝えする「生体超分子専攻NOW」。

第4回目は腸管感染症や食物アレルギーの治療法開発にもつながる、腸管免疫系(*1)の仕組みについて研究をしている大野博司教授にお話を伺いました。

研究内容について

先生のチームの研究内容を教えて下さい。

腸管免疫系は体内でも最大規模の末梢リンパ組織(*2)を形成しているにもかかわらず、これまであまり研究が進んでおらず、この数年急速に脚光を浴びつつあるところです。

 腸内には膨大な数の腸内常在細菌(*3)が棲息しており、また食物やそれとともに入ってくる種々の細菌、ウイルスなどの病原体もあります。これらはすべて私たちのからだから見れば異物です。腸管免疫系はこれらの異物に対処するために発達したと考えられています。

 腸管免疫系が正しく機能しないと、重篤な腸管感染症や炎症性腸疾患を起こしたり、あるいは食物アレルギーになったりしてしまうのです。ですから、腸管免疫系の仕組みが明らかになれば、これらの疾患に対する治療法の開発にもつながる、大切な研究だと考えています。

 私たちのからだの中で腸内の異物と接しているのは、腸管粘膜を形成する腸管上皮細胞(*4)という細胞です。私たちは、腸管免疫系の中でも、この腸管上皮細胞の役割について研究を進めています。

マウス小腸粘膜上皮を管腔側(腸の内側)から見た走査電子顕微鏡写真。A, パイエル板のリンパ組織(リンパ濾胞)を覆うドーム状のFAEを囲んでいる舌状の突起は絨毛と呼ばれ、吸収上皮に覆われている。B, AのFAEの一部を拡大した像。図のように、周りの細胞より陥凹して見えるのがM細胞。

医学的にも非常に重要な研究を行っているのですね。その腸管上皮細胞について具体的にどのような研究をしているのですか?

腸管上皮細胞にはM細胞とよばれる特殊に分化した細胞があります。M細胞はパイエル板などの腸管関連リンパ組織(*1参照)を覆うFAE(*4参照)と呼ばれる腸管上皮領域に散在し、細菌などの抗原(*5)を取り込み、免疫系の細胞へ受け渡すという重要な役割を担っています。しかし1974年にアメリカの研究者が初めて電子顕微鏡でM細胞を見つけて以来、ほとんど形態学分野でしか研究が行われてきませんでした。ですから、腸内抗原を監視するために、腸管上皮細胞では常に腸管表面側から体内側へと抗原の極性輸送を行っており、その一方向性の輸送にM細胞が関わっていることは予測されていても、実際のメカニズムはほとんど分かっていません。そこで私たちはM細胞の分化と抗原取り込みのメカニズムに着目しました。

 上皮細胞など種々の細胞から分泌されるケモカインとよばれる物質は、別の細胞を引き寄せるはたらきがあります。あるケモカインの受容体を欠損させたノックアウトマウス(*6)を調べたところ、通常のマウスに比べてM細胞が少ないことが分かりました。更には、正常マウスではそのケモカイン受容体を細胞表面にたくさん表出しているBリンパ細胞群がパイエル板にいるのですが、ノックアウトマウスではその細胞が少なくなっていることが分かりました。そこで正常マウスからそのB細胞群を集めてノックアウトマウスに移入したところ、M細胞が増えることがわかりました。これらのことから、そのケモカインを分泌しているBリンパ細胞群がM細胞の分化に重要な役割を持つことが分かりました。

 この研究で、私の研究室の博士後期課程の学生の海老澤君が日本免疫学会学術集会で受賞しました。

先生について

現在の大野先生は研究熱心な先生であるという印象がありますが、学生時代はどんな学生だったのですか?

医学部出身なので、学部生として6年間大学に通いました。医学生の頃は、昼間はバレーボールの部活に没頭し、夜は学生寮で毎晩のように騒いでいた学生でした。当時は、遊ぶのは今しかない!と思っていました(笑)。卒業後は4年間麻酔科で臨床医として働きました。その後痛みの研究がしたいと思い、博士課程に進学しました。博士課程の時には、将来研究者としてやっていこうと決めていたので、毎日深夜まで必要なら土日も実験していました。

先生はいつ頃から研究者になりたいと思いましたか?

中学生くらいの頃から生物(特に人)に興味があり、医学部に進学して研究の道に進みたいと思っていました。しかし私の母校の大学の医学部は当時研究の道に進む人はほとんど無くみんなが臨床の道を選ぶため、私もまわりに流されてはじめは臨床の道に進みました。でも研究への思いが断ちきれず、大学院に進学しました。

海外での研究経験は?

博士課程修了して半年後から半年間単身でドイツ、ケルン大学に行き、ノックアウトマウスの作成を学びました。その後家族と一緒に3年間アメリカのNIHに留学しました。私の上の子供はその後も交換留学生として海外に行っているので、英会話が私より上手です。

大学院での教育について

学生さんには研究に対してどんな風に取り組んで欲しいと思って教育していますか?

せっかく大学院まで進学しているのですから、自分が携わっている研究内容を理解して、受け身ではなく自ら進んで研究に取り組んでほしいと思います。すべては将来の自分のためですし、人から言われてやっているのではいい研究はできません。

大学院で勉強するためには、どんな勉強をすればよいですか?

よほどすごい人でなければ何でもできるし何でも知っている、ということはないと思います。目の前の自分に関係することから勉強し理解してゆくことで、自然と視野も広がってくると思います。

 また研究を進めていくためには、要領がいいこと、複数の実験を同時に進められること、きちんとしたコントロールを取って実験を組み立てることは重要です。また、粘り強い、根気強い、めげない、失敗してもあっさり忘れる、ということも重要です。学生さんには、たとえ前の日に失敗しても、翌朝起きたら昨日のことはさっぱり忘れて「今日はやってやるぞ!」という意気込みを期待しています。

研究室の学生の進路は?

 学生さんの指導を始めてまだ4年目ですが、博士前期課程(修士課程)で就職する人と博士後期課程(博士課程)に進学する人が半々くらいです。博士前期課程で卒業し、就職する人も就職先は様々です。

研究室の雰囲気はどんな感じですか?

明るく楽しくやっているつもりです。

先生から見た鶴見キャンパスの印象は?

学部がない大学院だからなのか、大学というより研究所のような感じですね。

今回は、免疫生物学研究室の大野博司教授にお話をいただきました。詳しい研究内容などの情報を知りたい方は、先生のホームページをご覧ください。大野先生、今日はお忙しいところ、どうもありがとうございました!

Profile

大野 博司(おおの ひろし)
1983年千葉大学医学部卒。1991年千葉大学大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。1991年千葉大学医学部助手。この間1994-1997年、米国NIH 留学。1997年千葉大学医学部助教授、1999年金沢大学がん研究所教授を経て、2004年理化学研究所免疫アレルギー科学総合研究センターチームリーダー( 現在に至る)。2005年4月より横浜市立大学大学院国際総合科学研究科大学院客員教授。

Keywords

(*1) 腸管免疫系
腸管を含む粘膜組織は上皮細胞層を介して体外環境と接しており、種々の細菌やウイルスをはじめとする外来抗原に常に暴露されている。そこでわれわれの体はそれらから身を守るために、特殊な免疫系を発達させてきた。特に腸管には、食物と一緒に腸管内に入ってくる細菌やウイルスの他、膨大な数の腸内常在菌も存在し、それらに対応するためパイエル板に代表される、リンパ節の様な構造を持つ特殊な免疫装置である「腸管関連リンパ組織」が発達している。

(*2) 末梢(二次)リンパ組織
一般にリンパ組織は、骨髄や胸腺のように免疫系細胞が発達分化する場である中枢(一次)リンパ組織と、免疫系細胞が抗原を認識して免疫応答が誘導される場である脾臓やリンパ節などの末梢(二次)リンパ組織に大別される。腸管免疫系は末梢リンパ組織に分類されるが、全末梢リンパ組織に存在するリンパ細胞の実に60〜70%が腸管に存在するとされており、腸管が「最大の末梢リンパ組織」と言われる所以である。

(*3) 腸内常在細菌
人をはじめとする動物の腸管内には膨大な数の細菌群が棲み着いており、これらを腸内常在細菌(腸内細菌叢)と総称する。人では、500〜1000種類、100兆個にも及ぶと言われており、これは我々の体を構成する全細胞数を軽く凌駕する数である。腸内細菌は病原微生物と競合することにより感染を防止したり、また腸管免疫系のみならず全身免疫系の賦活作用や、最近では炎症性腸疾患やアレルギー、さらには肥満などの生活習慣病への関与も示唆されている。

(*4) 腸管上皮細胞
気道や腸管などの体外環境と接する組織は、その外界との境界面が粘膜上皮と呼ばれる細胞で覆われており、腸管管腔面を覆っているのが腸管上皮細胞である。腸管上皮細胞は円柱形の細胞が1層に並んだ細胞シートを形成して体内外の境界をなす。その大多数は吸収上皮として栄養の吸収に働くが、一部は粘液を産生する杯(ゴブレット)細胞や、抗菌物質を産生するパネート細胞などの特殊な役割を担う細胞へと分化している。パイエル板などの腸管関連リンパ組織を覆う上皮領域も、抗原の取り込みに利するように分化しており、この領域をfollicle-associated epithelium (FAE)と呼ぶ。

(*5) 抗原
抗原(antigen)とは、もともとは抗体(antibody)の産生を誘導する物質ということから名付けられたが、現在では抗体産生を伴わない免疫応答も含めて、より広義に免疫系に認識されうる物質という意味で用いられる。多くは病原微生物など、外来の異物に由来するいわゆる「非自己」の物質であるが、まれに自分自身の物質も抗原(自己抗原)として免疫系に認識され免疫応答が惹起されることがあり、結果としてときに自己免疫疾患の発症にも繋がる。


(*6) ノックアウトマウス
任意の遺伝子に変異を導入し、その遺伝子の機能を無くしたり、あるいは低下させたりしたマウス。遺伝子の機能は全身でなくすことも、あるいは特定の臓器・組織でのみ働かなくすることもできる。この遺伝子ノックアウトマウスの技術を確立した科学者たちが2006年度のノーベル医学・生理学賞を受賞したことは記憶に新しい。

過去の専攻NOW

【第3回】DNA組換え反応の全体像を研究する創製科学研究室の岩崎博史教授

【第2回】生体高分子の立体構造とそのはたらきを研究する構造科学研究室の清水敏之准教授

【第1回】植物の環境応答を研究する環境生物学研究室の平山隆志准教授