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HOME  > 研究成果  > 専攻NOW  > 第5回 朴三用准教授

第5回 インフルエンザウイルスの増殖を担うRNAポリメラーゼサブユニット複合体の立体構造を解明した生体超分子設計科学研究室の朴三用准教授

生体超分子科学専攻に所属する皆さんにスポットを当ててインタビューし、専攻の今をリアルタイムでお伝えする「生体超分子専攻NOW」。

第5回目はインフルエンザウイルス(*1)の増殖を担うRNAポリメラーゼ(*2)サブユニット複合体の構造を世界ではじめて原子レベルで解明した朴三用准教授にお話を伺いました。朴先生の研究成果は発生が懸念されている新型インフルエンザウイルスの新薬開発の一助となると期待されています。

研究内容について

今年7月、英国科学誌「Nature」に先生の研究チームの論文「The structural basis for an essential subunit interaction in influenza virus RNA polymerase(インフルエンザウイルスAのRNAポリメラーゼにおけるサブユニット間相互作用)」(*3)が掲載されました。既に本学ホームページでも取り上げられていましたが(*4)、どのような研究なのですか?

インフルエンザは皆さんご存知のとおり冬になると決まって流行する病気ですが、近年では鳥インフルエンザウイルスがヒトへと感染し大流行することが懸念されています。またインフルエンザウイルスは頻繁に変異するため、このように変異したウイルス(新型ウイルス)に対するワクチンや新薬の開発が世界中で積極的に行われています。

インフルエンザウイルスの表面にはHAやNAと呼ばれる接着部位があります。これらの接着部位がヒトの細胞に作用してウイルスは細胞内に侵入しウイルスを増殖させます。増殖したウイルスは細胞外に出て他の細胞内に侵入増殖を繰り返し、爆発的に増殖していきます。皆さんによく知られている抗インフルエンザウイルス薬のタミフルは、接着部位NAの作用を阻害する薬です。つまりウイルスを殺す薬ではなく増殖を抑制する薬(ウイルスが細胞外に出られなくなるようにする薬)で、ウイルスに感染後48時間以内にタミフルを服用しないと効果が少なくなるのは、細胞内で増殖したウイルスが細胞外に出て他の細胞に広がった後ではタミフルでは手遅れになるからなのです。

また、接着部位HAは現在16種類、NAは9種類あることが知られていて、HAとNAの組み合わせによりインフルエンザの型が決まります。1918年〜1919年に世界中で大流行したスペイン風邪はH1N1型で、最近発見されたタミフル耐性型の鳥インフルエンザウイルスはH5N1型です。ワクチンはこれらのHAやNAの型にあわせて開発されるため、新型のウイルスが発生してからワクチンが開発されるまでにはどうしても時間がかかります。

そこで私たちはどの型のウイルスでも効果がある新薬開発に向けて、いろいろな型のウイルス間で相同性が非常に高い"RNAポリメラーゼ"に着目しました。RNAポリメラーゼはウイルスの中のタンパク質の一種で、いわば自分の中のタンパク質を作る工場のような働きを持っているので、RNAポリメラーゼの働きを抑制できればインフルエンザウイルスの増殖を止めることが可能になると予想されます。

我々はH1N1型ウイルスを用いてRNAポリメラーゼの構造解析を行いました。RNAポリメラーゼはPA、PB1、PB2の3つのタンパク質(サブユニット)が結合してできた複合体ですが、我々はその中でもPAとPB1のサブユニットが結合している部分をX線結晶構造解析(*5)し立体構造を明らかにしました。RNAポリメラーゼはサブユニット間の結合が1つでも外れると機能することができません。この明らかになった構造から、PA、PB1サブユニット間の相互作用を阻害するような形を予測して薬をデザインすれば、RNAポリメラーゼの働きを阻害しウイルスの増殖をとめることができる新薬が開発できると期待しています。

この研究で大変だったことは?

まずインフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼを人為的に作成することがとても難しかったです。次にこのRNAポリメラーゼの中から比較的安定な部位を探すことが大変でした。

このように苦労して探した比較的安定な部位がPAとPB1の結合部位付近だったのですが、X線結晶構造解析をするためには今度はその部位を結晶化することが必要です。その部位を増やして結晶化条件を検討することがまた大変な作業でした。

この研究は論文になるまでに2年弱かかりました。

この研究でおもしろいポイントは?

RNAポリメラーゼの中で比較的安定な部位がPAとPB1の結合部位だったことは、この研究の中で価値が大きかったと思います。結合部位の構造が分からなければ、サブユニット間の相互作用を阻害して、ウイルスの増殖を抑える薬のデザインができませんからね。

あとこれは結合部位の構造解析をして初めて分かったことなのですが、PAとPB1の結合部位は鍵と鍵穴のような形の非常にシンプルな構造でした。このような結合は非常に特徴的でめずらしく薬の開発をしやすいデザインなので、今後の新薬開発にとって、とても有意なことだと思います。

構造解析の結果が出て、初めてこの結合部位の構造が特徴的であることが分かったときはうれしかったですね。だって世界ではじめて自分だけ(このことが)分かっているのですから。特に今回のように誰も予測もしていない結果が出たときは本当にうれしいです。

今回の研究は運が良かったこともあります。でもNatureに掲載されるような論文を書くためには、アイデアが重要だと思います。Natureはご存知のとおり社会科学からサイエンスまで広い分野の論文が掲載されますから、そこを目指すには単なる実験を行うだけではダメです。どのようなアイデアで攻めるかが重要です。(朴先生は7回Natureにトライして今回が2回目の掲載です。)

先生について

とても穏やかなやさしい印象の朴先生ですが、学生時代はどんな学生だったのですか?

私は研究が楽しくて、研究室に寝泊りし家には着替えに帰るだけの生活をしているような学生でした。研究室に炊飯器やベットまで持ち込んでいましたね(笑)。

あっ、でも今の研究室の学生には同様の研究生活をするように指導はしていませんから安心してください。安全面で心配ですから。

先生はいつ頃から研究者になりたいと思いましたか?

子供の頃からずっとパイロットになりたかったので、研究者になりたいと思ったのは大学生になってからです。きっかけはちょうどその頃、何かに集中して取り組みたくなったことです。

先生は韓国の方ですが、日本にはいつ頃いらっしゃったのですか?

大学院(修士課程)のときです。その頃からずっと日本で生活しているので、かれこれ20年になります。

先生はとっても日本語がお上手ですよね?

そんなことないです(笑)。日本語の読み書きは韓国にいるときに勉強しましたが、しゃべることは日本に来てからです。語学は慣れです。性格にもよりますが、繰り返し何回も話したり、社会に出ると自然と身につきます。

うちの研究室の学生は私やTame教授(イギリス)と常に話をしているので、外国の方と話すことにはあまり抵抗がないように思います。

大学院での教育について

学生さんには研究に対してどんな風に取り組んで欲しいと思っていますか?

メンタル面、強くなって欲しいです。
私は研究室の学生にはよく「研究のストレスはストレスではない」と言っています。研究は10のうち9失敗、なんてことはよくあるのです。それを乗り越えなければいい成果は出ません。苦労して努力して結果を出すということは当たり前のことで、とにかく集中して自分がやりたい研究をやればいいと思います。
あとは研究で苦労しているときでも「楽しくやる方法」を見つけなさいともよく学生に言っています。自分自身のストレス解消法は持っていたほうがいいですよね。サイエンスはマラソンと一緒ですからね。

大学院で勉強するためには、どんな勉強をすればよいですか?

近年の研究には、グローバルな知識が必要です。広い分野の基礎力や適応力を身につけてほしいです。

研究室の学生の進路は?

製薬企業やメーカーの研究所や海外の教育研究機関の研究員が一般的です。

研究室の雰囲気はどんな感じですか?

我々教員と学生の距離が近いと思います。学生には「朴さん」と呼ばれていますし、Tame教授も「ジェレミー」と呼ばれていますよ

先生から見た鶴見キャンパスの印象は?

研究設備がトップクラスだと思います。住民のいない工業地帯だから設備は比較的整えることができますが、その分環境整備が設備整備に追いついていないと思いますので、今後は環境整備にも力を入れてほしいです。

今回は、設計科学研究室の朴三用准教授にお話をいただきました。詳しい研究内容などの情報を知りたい方は、先生のホームページをご覧ください。朴先生、今日はお忙しいところ、どうもありがとうございました!

Profile

朴 三用(ぱく さんよう)
1992年3月大阪大学基礎工学研究科生物工学専攻修士課程修了。1995年3月大阪大学基礎工学研究科生物工学専攻博士課程修了。1995-2001年理化学研究所研究員を経て2001年4月より横浜市立大学総合理学研究科生体超分子システム科学専攻助教授。2005年4月に国際総合科学研究科生体超分子科学専攻に改組。

Keywords

(*1)インフルエンザウイルス
人に感染して発熱や咳といった症状を引き起こすウイルスでA型、B型とC型がある。人に感染するのは主にA型である。インフルエンザウイルスはマイナス鎖の一本鎖RNAウイルスに分類され、そのRNAは8つに分節されている。インフルエンザA型には多くの亜型が存在し、抗原性の異なる16種類のHAと9種類のNAによって、H1N1からH16N9に分類される。日本でよく流行するのはH1N1型であり、近年流行が懸念されている鳥インフルエンザはH5N1型である。左のインフルエンザウイルスの図は、http://pathmicro.med.sc.edu/mhunt/flu.htm"から引用。

(*2)RNAポリメラーゼ
DNAもしくはRNAを鋳型にしてRNAを合成する酵素の総称。人のRNAポリメラーゼのようにDNAを鋳型にするものが多いため、インフルエンザのもののようにRNAを鋳型にするものはRNA依存RNAポリメラーゼと区別される場合が多い。その中でもインフルエンザのRNAポリメラーゼは、PA、PB1、PB2と3つのサブユニットからなること、RNA合成能だけでなく、感染宿主細胞の持つRNAの結合・切断など多様な機能を持つなど非常に特徴的である。

(*3)
The structural basis for an essential subunit interaction in influenza virus RNA polymerase(インフルエンザウイルスAのRNAポリメラーゼにおけるサブユニット間相互作用)
(Nature,Vol454(7208):1127-31)

著者:尾林 栄治1、吉田 尚史1、河合 文啓1、柴山 修哉2、川口 敦史3、永田 恭介3、Jeremy Tame1、朴 三用1
1横浜市大・国際総合、2自治医大・生理学、3筑波大院・基礎医学

(*5)X線結晶構造解析
波長の短いX線を物質が規則正しく並んだ結晶に照射し、回折されたX線の強度を詳しく解析することにより、結晶内の分子構造を解明すること。タンパク質の立体構造を実験的に決定するもっとも有力な手法のひとつである。

過去の専攻NOW

【第4回】腸管免疫系の仕組みについて研究をしている免疫生物学研究室の大野博司教授

【第3回】DNA組換え反応の全体像を研究する創製科学研究室の岩崎博史教授

【第2回】 生体高分子の立体構造とそのはたらきを研究する構造科学研究室の清水敏之准教授

【第1回】 植物の環境応答を研究する環境生物学研究室の平山隆志准教授