ナビゲーションをスキップして本文へ
  • Japanese
  • English
  • 通常版
  • テキスト版
  • 資料請求
  • お問合せ
  • サイトマップ
  • 大学トップ

研究者検索


ここから本文

HOME  > 研究成果  > 専攻NOW  > 第6回 中村寛夫准教授

第6回 病原菌のヘムセンサーの役割をタンパク質レベルで研究を行っている分子生理学研究室の中村寛夫准教授

生体超分子科学専攻に所属する皆さんにスポットを当ててインタビューし、専攻の今をリアルタイムでお伝えする「生体超分子専攻NOW」。

第6回目は病原菌のヘムセンサー(*1)の役割をタンパク質レベルで研究をする傍らで学生との交流活動にも力を入れていらっしゃる中村寛夫准教授にお話を伺いました。

研究内容について

先生が学生時代からこれまでに行ってきた研究について教えてください。

僕は理学部生物学科の植物学教室の出身で、最初は病原菌のような病気に関連するようなテーマの研究はしていませんでした。あまり社会がない、へそ曲がりともいわれるような教官、先輩たちに囲まれて研究をしていました(笑)。

学生の頃は、ヘム(*2)と膜タンパク質(*3)に関する研究をしていました。ヘムは真核生物のミトコンドリアや細菌が自ら作り出す化合物です。酸素をくっつけたり離したりする性質があるので、皆さんご存知のとおり血液中の酸素の運搬に関わっている他、ATPを作る反応にも関与しています。ミトコンドリアや細菌のリン脂質膜の中には、ヘムがタンパク質に結合した「ヘムタンパク質」が埋め込まれています。僕は大腸菌の細胞膜にあるヘムタンパクに関する研究に取り組んでいました。

博士の学位を取得後は、日本とアメリカで2年ずつ全く違う研究分野のポスドクをしました。その後再び「ヘムタンパク質の研究者」として理化学研究所の研究員として採用されました。

理化学研究所にきてからは根粒菌(*4)の酸素センサーという酸素を感知する情報伝達系の研究を開始しました。当時、根粒菌からヘムを含んでいる酸素センサーがアメリカで発見されました。この酸素センサーはヘムの部分で酸素を結合させたり離したりする作用を利用して、酸素濃度を感知しているのです。ヘムタンパク質の酸素センサーとしての働きは当時新しい発見でした。僕もこのタンパク質を細胞から取り出して、試験管内でいろいろな実験をすることで機能解析の研究成果をいくつか発表しました。

現在は酸素センサーからヘムセンサーへ研究をシフトしています。鉄は人間の体内に4gくらいあります。このうち70-80%は血液中(ヘモグロビン)にあり、残りはミトコンドリアなどの細胞の中にあります。前述のように、鉄は血液中で酸素を運ぶ作用の他にミトコンドリア内でATP、すなわち生体でのエネルギーを作るのに重要な役割を持っていますが、このように私たち体の中にある鉄のほとんどはヘムという化合物として存在し、機能しています。

鉄が必要なのは人だけではありません。細菌のような、血液がない生物もエネルギーを作り出すのに鉄が必要です。たとえば病原菌は感染した動物の血液から鉄分を得ます。そして、血液がいっぱいあるぞ〜ご馳走だ〜!とヘムを感知するのがヘムセンサーです。このように病原菌ではヘムセンサーが重要で、ヘムセンサーは病原菌の増殖に重要な役割を持っているといえます。10年ほど前にジフテリア菌(*5)で初めてヘムセンサーの候補遺伝子が発見されました。その後、一昨年に黄色ブドウ球菌でも候補遺伝子が発見されました。これらの発見は「どうやらヘムセンサーらしい」という報告でしたが、僕と大学院生たちは組み換え大腸菌からジフテリア菌ヘムセンサーを取り出し、ヘムセンサーとして働くことをタンパク質レベルで初めて明らかにしました。

先生が取り組んでいらっしゃる研究のおもしろいポイントは?

多くのタンパク質は水溶性タンパク質で細胞質の中に浮いています。根粒菌の酸素センサーも細胞質にぷかぷか浮いていました。このような水溶性のタンパク質は単離するのは比較的容易です。しかしヘムセンサーはリン脂質に囲まれているので、そのままでは水には溶けません。そこで界面活性剤(洗剤の仲間)でリン脂質と膜タンパク質を溶かして分離しなければなりませんが、この操作によって本来の膜タンパク質の性質を失うことが多いので、難しい研究対象とされています。ですから、膜タンパク質を取り出して、純化した状態で再び、リン脂質膜に埋め戻して本来の働きが再現されれば、より詳しい研究ができるようになります。こうした「再構成実験」が面白いポイントと言えます。

学生との交流について

先生はスポーツや園芸など、研究以外でもさまざまな学生との交流活動をされていますよね?

スポーツは球技が好きです。ボールのスピード感が好きで、テニスやキャッチボールをやるので、スピードガンも買って持っています(私費です)。

実はテニスは鶴見に来るまであまり経験がなかったのですが、学生有志たちとやるようになりました。古いラケットを使っていたのですが、それでは腕を故障すると心配して、とある学生が卒業するときラケットを譲ってくれました。こんな、学生とのお付き合い、ほんわかしていて、いいですね。今もそのラケットを愛用しています。ただし、現在四十肩痛でお休み中です。

園芸は、園芸というより草木やそれらにやってくるミツバチなどを眺めるのが好きで始めました。今はブルーベリーの栽培にハマッていて、自宅ベランダとキャンパス内で栽培しています。春に、白い小さい花が咲き、夏に青い実が収穫できます。秋には紅葉もあるので観賞期間が長いです。病虫害がほとんどなく、栽培が楽な点も長所です。

学生さんとのお付き合いを楽しんでいらっしゃる先生ですが、先生自身が大学院生だった頃はどんな学生でしたか?

僕は体育会系のノリの学生だったので、あまり良く考えずに平日も休日も実験ばかりやっていました(皆さんはこんな僕を反面教師としてください)。また、指導教官の教授がとても野球好きで、僕も昼食後には、助手の先生や同級生と頻繁に「投げ込み」をやっていました。当時は結構速い球を投げていましたよ(笑)。現在はだいぶ衰えてしまい、93km/hです(私物のスピードガンでの測定値)。学内の軟式野球やソフトボール大会には研究室の中心メンバーとして参加していました。また、電気泳動の最中などに、中庭でバドミントンを先輩学生に教わりながらやっていました。教授室から「片方(僕)の音が悪いぞ!」と大きな声で野次られていました。

先生は学生時代に指導教員の先生とさまざまなスポーツ交流された経験から、現在も学生さんとの交流を大事にしていらっしゃるのですね。先生は学生さんに研究に対してどんな風に取り組んで欲しいと思って教育していますか?

研究には、「目標達成型の研究」と「偶然発見型の研究」(セレンディピティとも言われます)があると思います。

通常の研究は目標を設定し、研究計画を立てて、実験を実施する。そして、その結果を解釈し、最初に立てた仮説があっているかどうかを確認するという手順だと思います。これは「目標達成型の研究」ともいえます。

このような「目標達成型の研究」が成功したときには「よしっ、やっぱりね」と気持ちよくなります。しかし、僕は研究の楽しさはそれだけではないと思います。僕は学生には「偶然発見型の研究」にも取り組んで欲しいと思っています。自身の「目標達成型の研究」の中で、本来の目標とは関係ないところで「この結果はおかしいな?不思議だな?」と感じたら、目標達成とは関係なくても興味を持って調べてみてください。その結果、思いがけない発見があるかもしれません。「えっ、なんで?」という体験です。これが「偶然発見型の研究」です。「自然」は時として、僕たちが考え及んでいないことも教えてくれます。ですから、僕は発見型の研究のほうが、チャーミングな発見があるように思っています。学生には、小さくてもいいからそれぞれが思いがけない発見、自分だけが初めて知ったという体験をしてほしいなと思っています。

鶴見キャンパスに興味のある方へメッセージ

これから受験希望の学生さんはどんなことに興味をもって勉強をすればよいと思いますか?

生物を研究対象としているので、生命を常にイメージしてください。研究対象は個体、組織、細胞、核酸やタンパク質といったそれぞれのレベルがありますが、基本姿勢は同じで、「不思議」と思うことです。大学院に入ったら研究活動が主ですが、その中で肌で感じるような、心が揺れ動くような体験をしましょう。
勉強については、教科書(テキスト)で体系立てて勉強する他、原著論文にあたってください。原著論文はまさに最先端の研究成果ですので、読むことで研究の現場に触れることができます

先生の研究室の学生の進路は?

博士号取得者は国内外で修行中です。ポスドクとしていろいろな研究に触れていくことは重要だと思います。修士課程卒業者は企業(製造業、出版社、生協、製薬会社など)で活躍中です。

研究室の雰囲気はどんな感じですか?HPに研究室のイベントの写真が掲載されていて皆さん仲がよさそうですが・・・。

僕自身、研究室で料理を作ってコンパをするのが好きです。そんな料理好きが何人かそろえば盛り上がります。一緒に生パスタを作ってくれる、コンパのリーダー役になってくれるような学生を募集しています(笑)。

今回は、分子生理学研究室の中村寛夫連携大学院客員准教授にお話をいただきました。詳しい研究内容などの情報を知りたい方は、先生のホームページ をご覧ください。中村先生、今日はお忙しいところ、どうもありがとうございました!

Profile

中村 寛夫(なかむら ひろお)
1990年、東京大学大学院 理学系研究科博士課程修了(理学博士)。 1990年-1992年、国立岡崎共同研究機構 基礎生物学研究所 博士研究員。1992年 -1994年、米国California大学Berkeley校博士研究員。1994年、理化学研究所に入所。1998年より現職。2001年より横浜市立大学大学院 総合理学研究科(現、国際総合科学研究科)客員准教授。

Keywords

(*1)ヘムセンサー
広義には細胞内外に関わらず、ヘムによってそのタンパク質の機能が調節されるものを指し、タンパク質リン酸化酵素や転写因子などが知られている。狭義には環境(細胞外)のヘム濃度を感知するタンパク質として定義される。細菌ではジフテリア菌、黄色ブドウ球菌でのみ、その候補遺伝子が見つかった。これらのタンパク質はセンサードメインでヘムを感知し、タンパク質のリン酸化反応でその情報を細胞内に伝達することで、ヘム輸送やヘム代謝関連の遺伝子発現を制御している。これらの候補遺伝子のタンパク質が直接ヘムセンサーとして機能していることを明らかにしたのは僕たちグループだけである(論文準備中)。

(*2)ヘム
鉄-ポルフィリン錯体。鉄がもつ化学反応性を利用するために生物が自ら作り出した化合物。ヘムタンパク質の中に含まれ、ミトコンドリアや細菌の細胞膜でのATP合成のための酸化的リン酸化反応(シトクロム)や血液の酸素運搬(ヘモグロビン)の中心的働きを担っている。

(*3)膜タンパク質
細胞の全タンパク質のうち、重量にして、約80%は水に溶けているが、残り10-20%は細胞膜、ER膜、ミトコンドリア膜などの生体膜に埋め込まれている。生体膜は水に溶けないリン脂質二重層で構成されているため、膜タンパク質も水に溶けにくいアミノ酸が多く含まれている。遺伝子数では全タンパク質のうち、膜タンパク質は30%におよび、エネルギー産生、物質輸送、情報伝達、細胞形態形成などたくさんの重要な生体機能を担っている。しかし、「水に溶けない」という性質をもつため、タンパク質レベルの研究が難しいとされている。

(*4)根粒菌
マメ科植物の根の中(例えば、枝豆の根に着いている粒)に共生する土壌細菌。根粒中の嫌気条件(低酸素状態)で、大気中の窒素ガスをアンモニアに変換し(窒素固定反応)、宿主植物や土壌にアンモニアを供給している。根粒菌の酸素センサーはこの菌が窒素固定をしうる嫌気条件を感知している。

(*5)ジフテリア菌
法定伝染病のひとつ。ヒトの気道に感染し、呼吸困難を引き起こす。ジフテリア毒素を産生し、致死的な心不全なども引き起こす。わが国では乳児期に三種混合ワクチンを接種しているので、発病はないが、予防接種がない国、地域ではまたたくまに感染が拡大する。

過去の専攻NOW

【第5回】インフルエンザウイルスの増殖を担うRNAポリメラーゼサブユニット複合体の立体構造を解明した生体超分子設計科学研究室の朴三用准教授

【第4回】腸管免疫系の仕組みについて研究をしている免疫生物学研究室の大野博司教授

【第3回】DNA組換え反応の全体像を研究する創製科学研究室の岩崎博史教授

【第2回】 生体高分子の立体構造とそのはたらきを研究する構造科学研究室の清水敏之准教授

【第1回】 植物の環境応答を研究する環境生物学研究室の平山隆志准教授