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HOME  > 研究成果  > 専攻NOW  > 第7回 片平正人教授

第7回 抗エイズウィルス活性を有するタンパク質の動作機構を解明した計測科学研究室の片平正人教授

生体超分子システム科学専攻に所属する皆さんにスポットを当ててインタビューし、専攻の今をリアルタイムでお伝えする「生体超分子システム科学専攻NOW」。

第7回目は抗エイズウィルス活性を持つタンパク質の動作機構を解明した計測科学研究室の片平正人教授にお話を伺いました。

研究内容について

今年4月、欧州学術専門誌「European Molecular Biology Organization Journal (EMBO J.) 」に先生の研究チームが抗エイズウィルス活性を有するタンパク質の動作機構を解明した研究成果(*1)が掲載されました。既に本学ホームページでも取り上げられていましたが(*2)、どのような研究なのですか

エイズウィルス(HIV)(*3)はヒトの細胞に侵入し、自分のゲノム情報を含むRNAを鋳型として、それと相補的なDNA(マイナス鎖DNA)を合成し、その後これを鋳型として再度相補的なDNA(プラス鎖DNA)を合成します。こうして自分のゲノム情報をもつ2重鎖DNAとしてヒトのDNAに組み込み、複製を作っていきます。

しかし、ヒトの体内にはHIVの感染に対抗するAPOBEC3G(アポベックスリージー)というタンパク質があります。APOBEC3GはHIVのゲノム情報を持つRNAから合成されたマイナス鎖DNAのシトシン塩基に反応し、ウラシル塩基に変換します(*4)。一部を変換されたマイナス鎖DNAからは、HIVの正確なゲノム情報を持つプラス鎖DNAは合成できません。この様にしてAPOBEC3Gは、HIVの感染に対する防衛機構を担っています。

私たちはAPOBEC3Gタンパク質の立体構造及び標的であるマイナス鎖DNAとの相互作用様式を、NMR法(*5)によってはじめて決定しました。これにより、APOBEC3Gがマイナス鎖DNAのシトシン塩基に反応する現場の姿を原子レベルの分解能で捉えることができるようになりました。そこで更に研究を進めてAPOBEC3Gがマイナス鎖DNAの塩基を変換する反応の様子をリアルタイムでモニタリングする事に初めて成功しました。反応のダイナミクスをリアルタイムで解明できた事により、APOBEC3Gの働きや抗エイズウィルス活性に関して深い理解が得られました。私たちはAPOBEC3Gの働きを手助けできるものがエイズ治療薬になりうると考えています。

しかし課題もあります。感染しているHIVはVifというタンパク質を持っており、これはAPOBEC3Gがマイナス鎖DNAのシトシン塩基を変換するのを阻害する働きがあります。つまりVifがあるとAPOBEC3G はうまく働くことができません。Vifの働きを阻害するようなものが見つかれば、それがHIVの治療薬になりうるかもしれません。

この研究で大変だったことは?

APOBEC3Gのようなタンパク質をNMRで構造解析するためには、タンパク質を大量に生産・精製・濃縮する必要があります。生産は大腸菌を用いて行い、それほど大変ではありませんでした。しかしタンパク質の精製・濃縮については、APOBEC3Gが溶けにくいタンパク質であった事から、精製の手順と濃縮の際の溶液条件を決めるのが非常に大変でした。

またAPOBEC3Gがマイナス鎖DNAに対して塩基の変換反応を起こす様子をリアルタイムでモニタリングする研究では、APOBEC3Gとマイナス鎖DNAをNMRチューブの中で反応させて測定しました。測定はオートでできますので大変な作業ではありませんが、NMRによるモニタリングに適した反応速度になるように、反応条件をいろいろ検討し決定するのが大変でした。

先生について

片平先生は2005年に本専攻に教授として着任されました。いらっしゃったときの鶴見キャンパスの印象はどうでしたか?

鶴見キャンパスも隣の理化学研究所も、女性の学生、研究員が多いことに驚きました。私の前任地は工学部でしたので圧倒的に男性のほうが多くそれに慣れていたので、ここは女性が多く華やかだなぁというのが第一印象でした。本当に女性が元気なキャンパスですね。

あと理化学研究所と連携しているので、設備と人材が豊富だなぁと思いました。私はNMRは大学の装置を使っていますが、その他の実験装置については、理化学研究所のものをお借りする事があります。学生の研究スペースも恵まれていると思います。研究室ではすべての学生に、勉強机と十分なスペースの実験机が与えられています。

先生ご自身は昔どんな学生でしたか?

たぶんちゃんとした学生だったと思います。一生懸命に研究をしていたはずです。ただ大学に来るのは昼頃から、という生活でしたね。当時はそれでよいと思っていましたが、今は考えを変えました。やっぱりちゃんと朝から来て実験を始めるという方がよいと思います。

先生はいつ頃から研究者になりたいと思いましたか?

高校生の頃は、大学を4年で卒業してそのまま会社に就職して半導体の研究をしたいと思っていました。大学院進学は考えていませんでした。最終的に大学院に進学したのは同級生の影響が大きかったです。研究者としての自分を意識したのは大学院進学後でした。

大学院での教育について

先生は指導している学生さんにはどのように研究に取り組んでほしいと思いますか?

博士前期課程の学生はもっと自分に自信をもってほしいと思います。博士前期課程の学生に関して、2年生の12月〜2月の修士論文執筆の時期に驚くほど研究が進むということがよくあります。そしてこの時に学生ははじめて自分の能力に気がつきます。もっと自分自身の能力に自信を持って、研究室配属当初から目標を高く設定してほしいと思っています。

また、学生が私に意見を言ってくれるとうれしいですね。一研究者としての対等なディスカッションが学生と成立した時に、充実感があります。はじめは的外れでもいいからたくさんの意見を言ってほしいです。私が気がついていないことを言ってくれるととても有難いですし、そういう機会が増えるといいなと思っています。

私は講義で計測科学特論?Tを担当していますが、講義の中で私の最新の研究の内容に触れる事があります。そのときに学生が興味をもってくれ、さらに講義後に質問をしてくれる事がありますが、これも張り合いを感じてうれしいものです。

これから大学院へ進学を考えている大学生へメッセージをお願いします。

大学ではだまされたと思って目の前にあるものをなんでも勉強してください。到底役に立ちそうにないことも役立つ時がくることもあります。また、一度多少なりとも勉強をしておくと本当に必要になった時の2度目の勉強の際にすっと取り組むことができる、ということもよく聞きます。あと、関連があることを一度勉強しておくと新しいことも学びやすいと思います。

先生の研究室の雰囲気はどんな感じですか?

毎年、博士前期課程の1年生が研究室に配属された夏ごろにゼミ旅行に行きます。企画は配属された1年生にお任せします。
3月には自宅に学生を招いてホームパーティーを開催しています。
あとお昼ごはんは教員、学生、研究員で、敷地内の食堂に食べにいっています。

片平先生の研究グループのメンバーに普段感じていることを聞いてみました

抗エイズウィルス活性を有するタンパク質の動作機構を解明した研究に携わった博士研究員の古川亜矢子さん

働きやすい職場です。自分で考えて、出た結果を先生とディスカッションし、自分の思ったことを主張することができます。

大学では私はNMRを使ったことはありませんでした。博士研究員としてこちらに来てからはじめてNMRの使い方を学びました。今回の論文が受理されたときはやっと受理された・・・ととてもうれしかったです。次の目標に向かって頑張りたいと思います。

計測科学研究室の博士前期課程2年の学生さん

片平先生はいつも穏やかな笑顔が印象的です。あと教授が直接研究室によくいらっしゃって、僕たち学生一人ひとりに研究の進捗状況とか聞いてくれるところなんかは、とても面倒見がよい先生だなぁと思います。

今回は、計測科学研究室の片平正人教授と研究グループの方々にお話をいただきました。詳しい研究内容などの情報を知りたい方は、先生のホームページをご覧ください。片平先生、今日はお忙しいところ、どうもありがとうございました!

Profile

片平 正人(かたひら まさと)
1984年3月早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。1986年3月東京大学理学系研究科相関理化学専攻修士課程修了。1989年6月大阪大学理学研究科無機及び物理化学専攻博士課程修了(理学博士)。1989年4月日本学術振興会特別研究員。1990年4月ヒューマンフロンティアサイエンスプログラム博士研究員(オランダ)。1992年4月横浜国立大学工学部講師。1995年4月同助教授。2005年2月横浜市立大学国際総合科学研究科教授。2009年4月横浜市立大学生命ナノシステム科学研究科教授。

Keywords and References

(*3)エイズウィルス(HIV)
エイズウィルスは俗称で、正式名はヒト免疫不全ウィルス(Human Immunodeficiency Virus, 略してHIV)。後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症させるウィルスである。

(*4)DNAのシトシン塩基に反応し、ウラシル塩基に変換
APOBEC3Gタンパク質はDNAを構成する4つの塩基の内のシトシン塩基に酵素として作用し、シトシン塩基が有するアミノ基を脱離させてウラシル塩基に変換する反応を、触媒する。

(*5)NMR法
核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance、略してNMR)法は、強力な磁場の中に生体分子を置き、これにラジオ波を照射してそのレスポンスを検出する事で、分子の立体構造や相互作用に関する情報を取得する手法である。

過去の専攻NOW

【第6回】病原菌のヘムセンサーの役割をタンパク質レベルで研究を行っている分子生理学研究室の中村寛夫准教授

【第5回】インフルエンザウイルスの増殖を担うRNAポリメラーゼサブユニット複合体の立体構造を解明した生体超分子設計科学研究室の朴三用准教授

【第4回】腸管免疫系の仕組みについて研究をしている免疫生物学研究室の大野博司教授

【第3回】DNA組換え反応の全体像を研究する創製科学研究室の岩崎博史教授

【第2回】 生体高分子の立体構造とそのはたらきを研究する構造科学研究室の清水敏之准教授

【第1回】 植物の環境応答を研究する環境生物学研究室の平山隆志准教授