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JPSJ編集委員会の推薦する注目論文としてEditor's Choiceに選ばれました。


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公募班の中川洋先生(日本原子力研究開発機構)が Journal of the Physical Society of Japan(JPSJ)に発表された論文(H. Nakagawa and M. Kataoka. Percolation of hydration water as a control of protein dynamics. J. Phys. Soc. Jpn,, vol. 79, 083801, 2010)が、JPSJ編集委員会の推薦する注目論文としてEditor's Choiceに選ばれました。さらにその研究内容が8月6日付けの科学新聞の一面に掲載されました。研究内容の紹介するため記事を寄稿して頂きましたので、是非ご覧下さい。

JPSJ HP http://jpsj.ipap.jp/index.html





タンパク質の生命機能発現に関する水の本質的役割を解明
-タンパク質と水和水の「構造の揺らぎ」を中性子により観測-

 一般にタンパク質は、周囲の熱揺らぎにさらされながらその構造を巧みに変化させ動くこと(構造の揺らぎ)で機能を発揮する。天然変性タンパク質は、構造の揺らぎが標的分子の認識に重要な役割を担う。揺らぎは水和水に著しく影響を受けるため、タンパク質と水和水の揺らぎの関係性を調べることは重要である。タンパク質がその機能を発現するためには、「動力学転移」と呼ばれる240 K近傍以上の温度で活性化されるタンパク質の「構造の揺らぎ」が重要であると言われている。この揺らぎはタンパク質が水和することによって生じることが分かっているが、これまで水和状態と揺らぎの関係については良く分かっていなかった。そこで今回、核酸分解酵素スタフィロコッカルヌクレアーゼ(SNase)を用いて、中性子非弾性散乱実験を行うとともに、分子動力学法(MD)によるシミュレーション計算を行い、タンパク質の揺らぎが水和水の構造や揺らぎとどのように関係しているのかについて研究を行った。
図1は、中性子非弾性散乱実験により得られた、タンパク質および水和水の揺らぎの温度依存性である。高い水和率でのみ、240K以上の温度領域で水和水の揺らぎが増大し、タンパク質の動力学転移を誘導されることが分かる。水和率を細かく変えた実験の結果、このようなタンパク質の大きな構造揺らぎは水和率が0.37(g water/g protein)以上で起きることが明らかになった。次に、タンパク質表面における水和水の存在形態の水和率依存性を計算機シミュレーションにより解析した(図2)。水和率が小さい状態では、ほとんどの水分子は、タンパク質表面で他の水からは孤立した状態で配位するが、水和率を増やしていくと、0.37以上の水和率で水分子同士の水素結合が急激に増大し、タンパク質はかご状に形成された水和水ネットワークによって取り囲まれるようになることが分かった。動力学転移の出現に必要な水和率と水和水のネットワーク形成に必要な水和率がともに0.37であり、両者の水和率依存性の傾向が一致する。これらのことから水和水がタンパク質表面全体を覆うネットワークを形成し、その揺らぎがタンパク質の機能発現に関わる揺らぎを誘導すること、すなわち、この水和水のネットワーク形成こそが、タンパク質の働きに必要な水の本質的役割であることが示された。
今後、ポリペプチドが大きく揺らいだ天然変性状態での水和状態や、結合に誘導される折り畳みによる水和状態の変化を、中性子非弾性散乱によって調べることは、天然変性タンパク質の動的構造の理解に重要であると考えられる。この研究成果は2010年7月26日にJournal of the Physical Society of Japan のオンライン版に掲載されるとともに、JPSJ編集委員会が推薦する注目論文としてEditor's Choiceに選ばれた。



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