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シンポジウム&領域会議

平成24年度日本農芸化学会シンポジウムの報告。



平成24年度日本農芸化学会シンポジウム「天然変性領域を介した相互作用に基づくタンパク質応用化学の新展開」に参加して

 平成24年度日本農芸化学会が3月22日から25日に京都女子大学で催され、シンポジウム「天然変性領域を介した相互作用に基づくタンパク質応用化学の新展開」が25日に行われた。このシンポジウムは本領域の班員である石野先生と京都大学の木岡紀幸先生が世話人として企画されたもので、本領域からは柴田先生、石野先生、私の三人が参加した。元々、この企画は平成23年度年会で企画されたが、震災の影響でシンポジウムが中止となり、今回、仕切り直しとなった。
講演は、私が天然変性タンパク質(以下IDP)の簡単な説明と生命情報学に関して講演を行い、続いて京都大学・木岡紀幸先生が「天然変性領域を介した蛋白質相互作用と細胞外環境の感知」というタイトルで講演された。木岡先生は動物細胞の細胞外マトリックスの「堅さ」を感知するメカニズムに興味を持ち研究されている。この感知メカニズムに関与する蛋白質にビンキュリンがある。ビンキュリンはヘッドドメインとテールドメインをつなぐリンカーが存在し、この領域は天然変性領域(以下IDR)と考えられるのと同時に、蛋白質ビネキシンの結合領域でもある。細胞外マトリックスの堅さに応じビンキュリンは挙動が変化するが、この挙動変化にはビネキシンが必要であり、IDRを介した相互作用が「堅さ」を知るために重要であるという興味深い講演であった。IDPの機能という観点でも興味深かったが、「細胞の堅さ」を知るセンサーが存在することにも興味を引かれた。
次に、静岡大学・原正和先生が「植物のストレス適応に関与する天然変性蛋白質」というタイトルで講演された。原先生の講演のトピックはデハイドリンというみかんの皮等に大量に含まれる蛋白質で、皮で発現するメッセージの実に20%がこの蛋白質のものであるそうだ。デハイドリンは全域がIDRであることが示されている。機能は不明であったが、原先生の研究により、低温耐性、ラジカルの不活化、核酸結合、金属結合等、多くの機能が明らかになり、原先生はこれらの機能の応用にも取り組まれている。実際、デハイドリンを導入したタバコは低温に対する耐性を獲得できたそうだ。植物のIDPということも新鮮であったが、農業・工業的応用を視野に入れている点等、IDP研究の応用範囲の広さを感じさせるものであった。
この後、石野先生のDNA複製に関与するIDP、柴田先生の相同DNA組み替えに関与するIDPの講演のあと、北里大学・中野洋文先生による「天然変性領域を介する蛋白質間相互作用を標的とする創薬」の講演が行われた。中野先生は長年、創薬研究に従事され現在、IDRを介した蛋白質間相互作用を標的とした創薬に取り組まれている。所属されるバイオベンチャー・プリズムバイオラボでは、β−カテニンとCBP、β−カテニンとp300の阻害剤の開発が行われている。CBPとp300は高い配列相同性を有するが、驚くことにαへリックス模倣分子ライブラリーから両者の相互作用を選択的に阻害する化合物を見いだしているそうである。このαへリックス模倣分子ライブラリーは既存の薬剤ライブラリーがカバーする空間配置とは全く異なる性格を持っており、非常にユニークなライブラリーであると感じた。β−カテニンとCBPのタンパク質間相互作用阻害薬は米国での臨床試験フェーズI/IIに進んでおり、IDPの持つ創薬分野でのポテンシャルを再認識させられるとともに、IDP創薬の分野で日本のベンチャーが先頭に立っていることを嬉しく思った。
本領域で我々はデータベースの開発を行っており、現在、ヒトの核タンパク質を中心にアノテーションを行っている。今回、核以外で働くタンパク質や、植物のタンパク質、IDPを標的とする創薬の講演を聞けたことは大変新鮮であった。また、IDP研究の範囲の広さを再認識し、データベースの収録も、他の生物、核タンパク質以外のタンパク質にも広げていく必要があると感じた。


前橋工科大学 工学部生命情報学科 福地 佐斗志




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