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新学術領域研究「天然変性タンパク質の分子認識機構と機能発現」
第2回 ISIDP 国際シンポジウムのご報告。



 2013年1月23-24日に開催された第2回国際シンポジウムThe 2nd International Symposium on Intrinsically Disordered Proteins (ISIDP)の報告をいたします。主催者側として西村善文先生(横浜市立大学)の報告(この報告の中で生物物理学的に興味深い問題提起がなされています)、参加者側として丹羽達也先生(東京工業大学)と寺川剛さん(京都大学)の感想文を掲載しました。写真と合わせてご覧下さい。
大阪大学蛋白質研究所 肥後 順一

シンポジウムの感想



開催報告書
横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科
西村善文



 新学術領域研究「天然変性タンパク質の分子認識と機能発現」第2回国際シンポジウムThe 2nd International Symposium on Intrinsically Disordered Proteins (ISIDP)は2013年1月23日(水)13:00~18:05と1月24日(木) 9:30~17:05に理化学研究所横浜研究所交流棟ホールで開催され合計129名の多くの方の参加のもとに盛会の内に終わった。海外招待講演は5名、国内口頭発表者は10名、ポスター発表は32演題であった。海外招待講演者と国内口頭発表者は総括班内メンバーによるメール審議で決定したので、プログラム作成については総括班メンバーのお世話になった。
 佐藤代表によるOpening Remarksで開会した後、文科省研究振興局振興企画課の菱山課長にOpening Addressをお願いした。文科省としてはiPS細胞の山中先生のノーベル賞受賞もあり生命科学の基盤研究に対する取り組みを強調して頂き、またタンパク質研究の重要性も今までや今後の取り組みの一貫として紹介して頂いた。その後講演やポスター発表等が始まったが詳細は個別の報告にゆだねるとして簡単なプログラムの概略を以下招待したい。
 冒頭の海外招待講演は第1回国際シンポジウムで講演したKeith Dunker (Indiana Univ., USA)とともに天然変性タンパク質の理論的な先駆者であるVladimir Uversky (Univ. South Florida, USA)によるUnusual biophysics of intrinsically disordered proteinsの講演であった。総括班でもやはり天然変性タンパク質の国際シンポジウムでは彼を1回は招待した方がよいだろという意見が強く、その期待に違わぬ講演であった。その後3人の班員による講演と32演題のポスター発表が続いた。
 2011年にみなとみらいの「はまぎんホール」で開催した第1回国際シンポジウムでは予算的な都合からポスターセッションの開催を断念せざるを得なかったが、今回は横浜市大の学術研究会の助成金も頂けた事から予算的な問題も解消し、ポスターセッションを開催することができた。ポスターセッション会場が窮屈であった点は残念であったが、参加者はプログラム時間以外でも活発にディスカッションを行っており、班員のみならず一般の参加者にとっても大変有意義なシンポジウムになったと推察される。また公開で参加費無料とした事で、多くの参加者に新学術領域研究を広く知ってもらう良い機会になった。
 初日の最後は前回も出席し横浜には何回も来ているがNMRにおける天然変性タンパク質のパイオニアと言うべきPeter Wright (Scripps, USA) によるRole of intrinsic disorder in dynamic signaling complexesの講演である。何回聞いてもCBPやp53等の天然変性領域によるネットワーク形成の非常に有意義な講演であった。懇親会を鶴見の下町の寿司屋で開催したが、海外講演者には非常に評判が良かった。今や寿司など和食は欧米では非常にファッショナブルなデイナーになっており、Gerhard Hummerも窮屈そうにしながら米国でも座敷で座る寿司屋がポピュラーになりつつあると喜んでいた。Peter Wrightは寿司を食べ日本酒を飲むために日本の招待講演は断らないのではないかとさえ思える。学会等の懇親会はホテル等での立食パーテイが通常で、主催者からするとその方が参加者の見積もりに幅があっても対応が楽なので、座敷での寿司などは人数の把握が大変なので避けたいところだが、少なくとも海外からの講演者のために行っている面もあるので、寿司が好きで無い班員にはご迷惑をお掛けしたかも知れないがご容赦をお願いしたい。なお念のために鶴見の下町の寿司の懇親会費は通常の立食パーテイの費用に比して非常にリーズナブルな値段であることも付け加えたい。その後Peterは当然のごとく鶴見のお好み焼きやで有志(森川、柴田、阿久津、清水、池口、香川、西村)と一緒に意見交換を重ねた。天然変性タンパク質の構造解析におけるRDCと化学シフトの関係や、ヒストン修飾酵素と代謝の関係など議論はつきなかった。
 翌日の冒頭は最近精力的にNMRで天然変性タンパク質の構造解析を行っているMartin Blackledge (IBS, France)によるProbing the Relationship between Conformational Flexibility and Protein Function using High Resolution NMR Spectroscopyの講演で始まった。NMRのRDCや化学シフトなどを駆使して天然変性タンパク質の構造を決定している。その後3人の班員による発表が続き、午前の最後は中性子小角散乱の大家であるJoseph Zaccai (ILL, France)による Dynamical coupling with hydration water in a compact soluble protein, a membrane protein, and an intrinsically disordered protein, compared by neutron scatteringの講演があった。午後は4人の班員による発表とポスター発表が続き最後の講演は計算科学の立場からGerhard Hummer (NIDDK, USA) によるOrder and disorder in supramolecular assemblies: experiment and simulationの講演であった。最後に西村がClosing Remarksで第3回の国際シンポジウムの期待を述べて終了した。終了後、同じくPeter、Gerhard、Martin、Volodyaと一緒に有志(佐藤、柴田、杉山、池口、清水、肥後、高田、奥脇、香川、西村)で鶴見の居酒屋で意見交換を行うことが出来、更に近くの焼鳥屋に場所を代えPeterとGerhardと池口と西村は新たな意見交換を重ねた。
 今回の会場である理化学研究所横浜研究所交流棟ホールは、理研横浜研究所と横浜市大の鶴見キャンパス内にあり、空き時間に海外招待講演者を鶴見キャンパスに案内し、研究室を見学して頂く場面も見られた。これは第1回のように完全に学外のホールでの開催であれば得られなかった機会で、海外招待講演者にとっても有意義な時間を過ごして頂くことにつながった。
 シンポジウム後に海外招待講演者の一人であるVladimir(Volodya)Uverskyに、鶴見キャンパスで大学院生向けの特別講義と、研究室セミナーをして頂き、シンポジウム以降も学生・教職員へ天然変性タンパク質研究の情報収集の場を提供することが出来た。結局私はUverskyの講演を3回聞く機会があったので彼の講演内容についてのみ、少し詳しく紹介したい。3回とも講演題目は異なっていて各々特長はあるのだが、研究室内の講演「Intrinsically disordered proteins: Dancing protein clouds」について簡単に紹介したい。最初にIDPの歴史を紹介し、[intrinsically disordered, natively unfolded, intrinsically unstructured, intrinsically unfolded and intrinsically flexible]のキーワードでPubMedを調べると1935年から2000年までに10件程度がヒットするがそれ以降飛躍的に増加し、2005年で100件、その後各年毎に130、200、230、300件と指数関数的に増加していることが示され、天然変性タンパク質は非触媒的な機能を持つ新しいタンパク質である事を強調した。またフォールドした球状タンパク質から完全に全長がランダムな変性タンパク質の間には様々な天然変性タンパク質の構造状態があり得ることや、全てが可能であり連続的なスペクトルを形成していて想像力が重要である事を強調していた。またalternative splicingによって球状タンパク質と天然変性タンパク質になる場合やヒストン関連タンパク質やリボソーム関連タンパク質の講演を行ったが、詳細は省略したい。
 Volodya Uverskyとの話しで面白かったのは彼のスタッフはポスドク1人であり、多くの論文がスライドの写真で出てきた様々な著者との共著で出ているのは、彼の授業では学生に課題を出し良いレポートは学生を第1著者として論文発表するということを行っているためであると答えていた。学生のモチベーションも上がるそうだが、おそらく実験科学では困難だと思うが、情報科学では可能なようである。日本の生物情報科学者のコメントを聞きたいところだが、優秀なレポートがそのまま投稿論文に出来るのは英語圏の学生だからだろうか?あるいは天然変性タンパク質が非常に新しいパラダイムであり、情報科学的に研究することがたくさんあるためだろうか?皆様の大学や大学院の講義を考えていかが思われるでしょうか?
 最後に、私も課題を一つ皆様に提示したいと思う。
Volodya Uverskyの講演でもあったが、アミノ酸の構造形成能力は種々の統計によって少し異なるが、大体は以下の順である。
W>C>Y>I>F>V>L>H>T>N>A>G>D>M>K>R>S>P>Q>E
疎水性アミノ酸が構造形成に重要でありグリシンやプロリンは構造破壊因子であり、親水性アミノ酸や荷電性アミノ酸は表面に露出し天然変性状態を好むので、細かいところは別にして、大体はリーズナブルな順番である。ただし、私が個人的に興味あるのはDとEの順番である。何故Eが一番天然変性状態を好みDはどちらかというと中間なのかという点である。Volodya Uverskyにも質問したが、全く判らなく自然はそうなっていると言っていた。生物物理学の昔の研究ではポリアミノ酸の物性研究が盛んに行われていたが、この違いは判らないと言っていた。それら基盤的な物性研究は球状タンパク質の酵素のパラダイムの中で、生物学的な意義がないということで歴史的に排除されてきた研究であると彼は強調した。今あらためて、エピゲノム関連因子などの天然変性タンパク質の構造と機能の観点からの研究が必要である。是非上記の課題を解決して頂けたら少なくとも構造エピゲノム研究者としては非常に有り難く、また機能的な側面での共同研究もやぶさかでは無いと強調したい。
 海外からの講演者は皆さん全員日本の天然変性タンパク質の研究を非常に高く評価し、是非とも第3回の国際シンポジウムを開催して欲しいという希望とまた是非参加したいと言う意見であった。その一例としてVolodya Uverskyが是非皆様の研究を彼の雑誌に投稿して欲しいという招待のメール(下を参照)が来たので、添付ファイルも合わせてご参照下さい。但し私はこの件には関係ないので、興味ある方は直接彼にメールして頂きたい。
 最後に、本国際シンポジウムの開催にあたっては研究室の多くの方のお世話になった。特に土方さんには、会計や会場運営設営や海外講師を含む多くの参加者との交渉等でお世話になった。記して感謝したい。

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Dear Colleagues,

The goal of this letter is to invite each of you to consider a possibility to write a paper for the Intrinsically Disordered Proteins journal. Attached is a flyer with more info about this journal. The idea is to collect a set of papers that would highlight your talks and posters at the 2nd ISIDP Symposium and put it in a special issue of the IDP journal.
I think that the IDP journal needs a strong start and an issue based on your talks that cover some recent advances in the field will clearly serve this goal.
Of course, we would be happy to consider any other contributions to the journal, which has sveral article types, such as Original Research Papers, Short Communications, Reviews (both comprehensive overviews and short puncta), Technical Papers (toolbox, protocol and resource), Commentaries and Views, Addenda, Perspectives, Hypothesis and Point-of-View.
Please let me know what do you think about this initiative.

Sincerely,
Volodya
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Vladimir N. Uversky, Ph.D., D.Sc.
vuversky@health.usf.edu

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〈 シンポジウムの感想 〉

新学術領域研究「天然変性タンパク質の分子認識機構と機能発現」
第2回国際シンポジウムに参加して

 本領域のシンポジウムに参加するのは初めてだったのですが、天然変性タンパク質を理解するという目的の下、構造生物学、分子生物学から情報生物学にいたるまで、幅広い分野からの研究が集まっていることが印象的でした。天然変性タンパク質の構造に注目した研究では、NMRや高速AFMから中性子散乱、質量分析などの実験手法やMDシミュレーションを駆使して、天然変性ドメインのカタチや動き、標的タンパク質との相互作用の様式などについて、今まで検出できていなかったものをどうにかして明らかにしようというという強い思いが感じられ、非常に興味深く感じました(残念ながら生化学を主に学んできた私には個々の手法の詳細までは理解することができませんでしたが…)。また一方で天然変性ドメインの細胞内での役割を調べる研究についての発表もあり、多様な視点から天然変性タンパク質について考えるよい機会を得ることができました。個人的には、Uversky先生(Univ. South Florida)や太田先生(名古屋大)の発表にあったような天然変性タンパク質データベースに興味をかき立てられ、様々な種類の天然変性ドメインの性質を比較できるような実験系を考案し、実験によって比較を行ってみることで「天然変性であること」をより統一的に理解することを目指す研究をしてみたい(Uversky先生の発表にあった「スペクトル」的に、天然変性タンパク質を理解することができたらとっても面白そう)なんて、半ば妄想のようなことを考えたりもしていました。
ポスターセッションでは、分野・年齢など関係なしの"多様な相互作用"が特に多かったように感じました。生化学実験を行っている私たちのグループのポスターに、「実験の事が知りたいから教えてほしい」と情報系の学生の方が聞きに来て下さったり、反対にシミュレーションのポスターの前で、素人同然の私に対して発表者の方が根気強く説明して下さったり(後で思い返してみるとトンチンカンな質問ばかりしてしまっていたような気もしますが…)普段ではちょっとしづらいような交流ができたことはとてもよい経験となりました。このような相互作用を実現できる「場」としても本シンポジウムはとても意義深く、実際に日夜手を動かしている私たちにとっても非常に大きな刺激となったシンポジウムでした。


東京工業大学 大学院生命理工学研究科 丹羽 達也(田口英樹公募班所属)

「第2回 ISIDP 国際シンポジウムに参加して」

第2回国際シンポジウムが1月23、24日に横浜の理化学研究所で開催されて、海外からの招待講演者5名に国内からの講演者10名を加えた総勢15名による講演とポスター発表が行われました。今回のシンポジウムで印象的だったのは、海外からの講演者の一人であるVladimir Uversky博士の「天然変性タンパク質はハエのような多角的視野を持って理解しなければならない」という言葉でした。この言葉を念頭に置いて本シンポジウムの、特に国内からの講演者の講演を振り返ってみると、高速AFM、X線散乱、X線回折、中性子散乱、中性子回折、NMR、質量分析、分子シミュレーション、バイオインフォマティックスなど、各分野の研究者がそれぞれ自分の持つ技術を駆使していて、この領域全体として「多角的視野から天然変性タンパク質を理解する」ことを実現する体制が整っているなという印象を受けました。特に、金沢大学の安藤敏夫博士のご講演では(私の理解が正しければ)鞭毛モーターの形成において鞭毛モーターがどこまでできたかを天然変性タンパク質が確認するメカニズムを発表されており、そのメカニズムはさることながら、高速AFMで観察された天然変性タンパク質が水溶液中で実際に動いている姿に感銘を受けました。また、Peter Wright博士のご講演では(私の理解が正しければ)NMRによって明らかになった、変性状態のタンパク質が他のタンパク質に結合する際に、フォールディングしながら結合する詳細なメカニズムやその結合がリン酸化によって制御されるメカニズムを発表されていました。それらの天然変性タンパク質の挙動や機能メカニズムは肥後順一博士やGerhart Hummer博士がご講演された、全原子シミュレーションや疎視化シミュレーションによってよく再現されており、それらの講演では実験では見えないスケールのメカニズムを議論しておられました。分子シミュレーションの研究者の端くれとして、天然変性タンパク質を理解するための多角的視野の一部としての分子シミュレーションが果たす大きな役割を再認識させられる有意義なシンポジウムでした。


京都大学大学院 寺川 剛


第2回ISIDP国際シンポジウムに参加して

第2回国際シンポジウムが、1月23、24日に鶴見の理化学研究所横浜研究所において開催されました。IDPを研究している国内外の著名な研究者の方々が参加されていました。多様な研究発表、議論が活発になされており、自分の視野の狭さを痛感させられました。
私は、蛍光による一分子測定を用いて癌抑制因子p53のDNA探索過程におけるダイナミクスの研究を行っており、今回それに関する発表をさせていただきました。シンポジウムでは高速AFMによる測定、また自分と同じく蛍光一分子測定によって、溶液中におけるIDPの構造ダイナミクスを研究されている方々もおられました。そのような方々の研究、実験技術に関する話を聞けたことは非常に有意義でありました。一分子単位でタンパク質のダイナミクスを明らかにすることに改めて大きな可能性を感じました。さらにIDPに関してのデータベースを構築されている方々もおられ、情報を共有し議論することの重要さを感じました。シンポジウム後の飲み会では、計算機シミュレーションによる研究をされている方々と同席させていただきました。その場での議論において自分の研究の新たな可能性を発見することができ、非常に有意義なときとなりました。
シンポジウムに参加したことで、IDPの構造的特徴、それに起因する作用過程を明らかにすることに対する重要性とともにいまだに解明されていない様々なトピックに対する期待を感じています。


東北大学大学院 村田 崇人


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