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新学術領域研究「天然変性タンパク質の分子認識機構と機能発現」の総括。


  新学術領域研究「天然変性タンパク質研究」のあれこれ
佐藤 衛(横浜市立大学)

 平成21年7月27日、新学術領域研究に応募していた「天然変性タンパク質の分子認識と機能発現」の審査結果が届き、日本における天然変性タンパク質研究が本格的にスタートしました。新学術領域研究はそれまでの特定領域研究を発展的に解消して生まれた科研費の新しい領域で、英語に訳するとGrant-in-Aid for Scientific Research on Innovated Areaで、特定領域研究がGrant-in-Aid for Scientific Research on Priority Areaであることを考えると、当時から流行っていたイノベーションを意識したネーミングでとても新鮮に思いました。Priority Area(特定領域研究)で目指し、たどり着いた研究の目標のさらにその先に行くためには、見方を変えた(あるいは発想を転換した)イノベーションが不可欠ですよと語りかけているようです。事実、新学術領域研究の領域計画書には研究対象として、下記の(1)から(5)の中から該当するものを選択する項目があり、
 (1)既存の学問分野の枠に収まらない新興・融合領域の創成を目指すもの。
 (2)

異なる学問分野の研究者が連携して行う共同研究等の推進により、当該研究領域の発展を目指すもの。
 (3)

多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進により、当該研究領域の新たな展開を目指すもの。
 (4)当該領域の研究の発展が他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらすもの。
 (5)

学術の国際的趨勢等の観点から見て重要であるが、我が国において立ち遅れており、当該領域の進展に格段の配慮を必要とするもの。
迷わず(2), (3), (4)の3つを選択しました。迷わずにというか、そのときはなんと申請した天然変性タンパク質研究がかくもぴったり(2), (3), (4)に合致するのかと感心していたことを思い出します。書面審査にパスして行われた合議審査(ヒアリング)のときも、審査委員の先生から「天然変性タンパク質研究は新学術領域研究の主旨にぴったりですね」と言われ、「先生もそう思われるでしょ」と心の中で呟きながら(心のなかで)喜んでいました。一方で、「予算配分に対して研究遂行が可能かどうか懸念される」というような辛口の質問もありましたが、「予算についての質問があったときは採択される可能性が高いよ・・・」という領域内の先生からの励ましがあり、その言葉どおり平成21年7月27日に採択の通知が届きました。
 以上が申請にまつわるお話ですが、その後、文科省から「科学技術・学術審議会学術分科会において、新学術領域研究創設から3年以上も経ったが、分野間の連携による社会の発展への貢献や、分野を超えた研究の体制づくり、若手研究者の育成等を目指す新学術領域研究において人材育成機能が低下している等の意見が出ている」ので、新学術領域研究の現在の在り方、応募、審査、評価の方法等についての意見を求められました。一部省略しますが、『』の中が私の意見です。『これまで採択されている新学術領域研究の課題をみますと、依然として重点領域研究 → 特定領域研究 → 新学術領域研究の構図が色濃く残っている感があります。そして、新学術領域研究は特定領域研究に比べて研究費の額が少なくなっていますので、特定領域研究から新学術領域研究へ移行する際には、特定領域研究のグループを2分してそれぞれが独立して新たな新学術領域研究に応募するといった傾向も見受けられます。しかし、重点領域研究 → 特定領域研究への移行と特定領域研究 → 新学術領域研究への移行はサイエンスに対する考え方がまったく異なっています。その意味で新学術領域研究の英語名はinnovative areaとなっています。これは、新学術領域研究がこれまでの重点領域研究から特定領域研究に対するinnovationとの位置づけであるとの認識で企画された研究であるためで、この点をあらためて再認識する必要があるのではないでしょうか。すなわち、重点領域研究および特定領域研究は「すでに研究領域としてある程度確立された領域の水準を当該領域研究で大幅にレベルアップを図る」ことを目的にしているのに対し、新学術領域研究は「このように確立・レベルアップされた研究領域においても、それぞれ単独の研究領域では達成できない非常に難度の高い研究課題に対して、複数の異なる研究領域が互いに密接に連携・融合することにより(相乗的に)問題解決に挑戦する」研究であることを認識し直す必要があると思います。そのような明確な位置づけの中で若手研究者を育成することが新学術領域研究のもう1つの大きな目的であると思います。まずは、重点領域研究や特定領域研究で行われてきたように、同じ分野の研究チーム内での人材育成からスタートし、その後、新学術領域研究内で様々な角度からの若手育成のためのワークショップを積極的に企画して異なる分野の研究チームとの学術交流を深め、今までにはないまったく新しいサイエンスの構築および個々の若手研究者のスキルアップを図っていくことが肝要であると思います。』
 以上ですが、皆さんはどう思われるでしょうか。人材育成については、その重要性を最初から認識していて申請書には3回行う予定であることを明記しましたが、実際には4回行っていて、若手の人材育成が新学術領域研究で非常に重要であることを常に認識してきました。平成21年7月にスタートした新学術領域研究「天然変性タンパク質の分子認識と機能発現」は平成26年3月に終了します。この領域研究が目指したのは「天然変性タンパク質を究める」ことですが、それが簡単に達成できないことは皆さんもお分かりだと思います。わかった(やっと登り切った)と思った矢先に大きな山が現れ、それを乗り越えたらまた大きな山が目の前に・・・。これがサイエンスの奥深さで、その中でもタンパク質研究の奥の深さは天然変性タンパク質の出現で相当深くなった感じです。しかし、この領域研究で育った若手研究者がこの難攻不落の天然変性タンパク質研究に果敢に挑戦し、彼ら彼女らをコアとした生命科学の新学術領域が構築されることを心より願っています。彼ら彼女らが主役の次なる天然変性タンパク質研究に期待して、「新学術領域研究としての天然変性タンパク質研究」を終えたいと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 


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