生命医科学研究科
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タンパク質の結晶化を促進する新たな実験手法を開発 (構造生物学研究室 禾グループ)

2019.03.22
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抗体フラグメントを利用してタンパク質の結晶化を促進する新たな実験手法を開発 (構造生物学研究室 禾グループ)

発表者:田村梨沙子1(修士課程2年), 大井里香特任助手1, 明石知子准教授2, 禾晃和准教授1
⇒Research map
研究分野:構造生物学
キーワード: X線結晶解析、結晶化シャペロン、タグ抗体、電子顕微鏡イメージング
1 構造生物学研究室 2構造エピゲノム研究室
 
図1:今回の論文での実験のデザイン。

研究成果のポイント

  • 立体構造解析を行う際に有用な抗体フラグメントを標的タンパク質に結合させる新たな実験方法を開発
  • 標的タンパク質に埋め込んだ抗原配列に抗体フラグメントを結合させることで、標的タンパク質の結晶化が促進されることを実証
  • 創薬標的となる膜タンパク質などのX線結晶解析や電子顕微鏡イメージングによる構造解析にも応用可能 
  • 図1は、今回の論文での実験のデザイン。構造を調べたい標的のタンパク質のループ部分に抗原配列を挿入した人工タンパク質を作り、抗体フラグメントを結合させる。もともと結晶化しにくかった標的のタンパク質が、抗体フラグメントの介添え(手助け)によって結晶化しやすくなることを期待して実験を行った。

図2:PAタグを介した抗体フラグメントとの複合体の一例(PDB ID: 6AL0)

発表内容

 タンパク質の生理的な役割を理解する上で、立体構造情報は重要な手がかりとなります。タンパク質の立体構造を決定するための手法の中にX線結晶構造解析があります。X線結晶構造解析を行うためには、まず、標的となるタンパク質の結晶を作る必要があります。しかし、どのようなタンパク質でも結晶になるわけではなく、良質の結晶が得られるかどうかが構造解析を行う上でのボトルネックとなっています。このため、結晶になりにくい膜タンパク質などを解析する際には、抗体のFabフラグメントなどを結合させることで標的タンパク質の結晶化を促すという手法が用いられています。このFabフラグメントのように結晶化促進作用を示す分子を結晶化シャペロンと呼び、受容体や膜輸送体をはじめとする創薬標的にもなる膜タンパク質の多くが、結晶化シャペロンを利用することで構造決定されています。ただし、それぞれの標的タンパク質に対して特異的に結合し、結晶化を促進する効果を示す抗体を取得することは容易ではないため、この結晶化法を実際に用いるには多大なコストや労力を要するという問題がありました。
 
そのような状況の中、今回の論文では、PAタグと呼ばれる配列を標的タンパク質に移植し、この配列を認識するモノクローナル抗体NZ-1のFabフラグメントを結合させることで、標的タンパク質の結晶化を促進するという新規の結晶化法の開発に取り組みました。PAタグは12アミノ酸残基からなる配列で、NZ-1抗体と結合する際にループ状の構造をとります。また、PAタグとNZ-1抗体の親和性は非常に高く、一旦結合するとなかなか離れなくなることも分かっていました。今回の研究では、標的タンパク質のループ領域の配列をPAタグと置き換えた人工的なタンパク質を多数作製して、Fabフラグメントが結合した際に、標的タンパク質の結晶化が促進されるかを調べました。その結果、Fabフラグメントが結晶化シャペロンとしてはたらくことが確かめられたとともに、PAタグを移植する部位を適切に選ぶことでFabフラグメントとの結合がより強固になり、標的タンパク質の立体構造を精密に解析できるようになることも示されました。

図2はPAタグを介した抗体フラグメントとの複合体の一例(PDB ID: 6AL0)。NZ-1抗体のFabフラグメントをオレンジ色、標的タンパク質を水色、標的タンパク質に埋め込まれたPAタグを赤紫色で示す。(a) 複合体の全体像。多数の原子からなるタンパク質を分子表面モデルで示す。(b) PAタグ周辺の拡大図。標的タンパク質とPAタグをリボンモデルで示す。ループ状のPAタグが水色の標的タンパク質に挿入されている。挿入する位置を微調整することで、標的タンパク質や複合体全体の構造が安定になり、高い精度で立体構造を決定することが可能になった。
 
今後、今回の論文で検討した結晶化法がさらに改良されれば、モノクローナル抗体を個別に作製することなく、NZ-1抗体を共通して利用することで様々なタンパク質の結晶化を促進することが可能になると期待されます。また、近年進歩の目覚ましい電子顕微鏡イメージングにおいても、標的タンパク質に抗体フラグメントを結合させることで、より効率的に構造解析を行うことができると考えられています。このため、今回開発した手法を応用することで、電子顕微鏡イメージングによる構造解析も加速すると期待されます。

発表雑誌

論文タイトル:Application of the NZ-1 Fab as a crystallization chaperone for PA tag-inserted target proteins.
著者:Risako Tamura, Rika Oi, Satoko Akashi, Mika K. Kaneko, Yukinari Kato, Terukazu Nogi*.
雑誌名:Protein Science 28, 823-836 (2019)
DOI番号:10.1002/pro.3580.

用語説明

 結晶化シャペロン
シャペロンは介添え役を意味する言葉です。X線結晶構造解析では、標的タンパク質が結晶化しやすくなるように介添えする分子をさします。タンパク質の中でも特に細胞膜に埋もれている膜タンパク質は、分子同士がうまく積み重ならず、結晶になりにくい傾向があります。このため、膜タンパク質の構造解析では、抗体フラグメントを結合させることで、分子同士が積み重なり、結晶化しやすい状態に変化させるという手法が用いられています。抗体フラグメントを結合させる場合以外にも、標的タンパク質内部に他のタンパク質を挿入した人工的なタンパク質を作ることで結晶化の促進を行う場合もあります。

問い合わせ先

横浜市立大学 大学院生命医科学研究科 構造生物学研究室  禾 晃和
TEL: 045-508-7226, FAX: 045-508- 7365
E-mail: nogi [at] yokohama-cu.ac.jp
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