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生命医科学研究科 鈴木 厚 教授グループの研究成果が、『Journal of Cell Science』に掲載されました!

2022.08.26
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ゴルジ体を足場に微小管を架橋する新しい微小管制御タンパク質Microtubule crosslinking factor 2を発見

生命医科学研究科(分子細胞医科学研究室)の鈴木 厚 教授のグループは、細胞内微小管を非対称に組織化し、細胞運動の極性化に不可欠な役割を果たす微小管制御タンパク質を新たに同定しました。また、細胞が微小管(細胞内輸送のレール)の配向(並び方、走り方)をコントロールする際に、ゴルジ体が積極的な役割を果たしていることも初めて明らかにしました。
その研究成果は、科学雑誌『Journal of Cell Science (vol.135)』に掲載され、Research Highlightのトップで「A new player in Golgi-associated microtubule regulation」として紹介されました。
この研究は、8年近くにわたる鈴木厚研究室歴代の修了生や、大学院生の研究成果の集大成となるもので、2022年現在、生命医科学研究科 博士前期課程2年に在籍している、山田 ちひろさんの成果も含まれています。

論文題目

 MTCL2 promotes asymmetric microtubule organization by crosslinking microtubules on the Golgi membrane
(和訳:MTCL2はゴルジ体上で微小管を架橋することによって、非対称な微小管の組織化を促進する )

発表内容

間期の細胞における微小管は小胞輸送のレールとして働き、細胞の形や機能の方向性を決定する上で重要な役割を果たしています。中心体から細胞辺縁部に放射状に広がり、その先端で重合・脱重合を繰り返している微小管(中心体性微小管)についてはよく知られています。それに加えて細胞内には、ゴルジ体*1周辺に集積しゴルジ体の集合構造の形成を助ける、重合状態が安定したゴルジ体性微小管が存在します(図1 右下写真参照)。しかし「なぜゴルジ体周辺にこれだけ微小管が集積するのか」そのしくみはほとんどわかっていませんでした。
鈴木グループでは、先に、ゴルジ体性微小管の安定化を促進する微小管制御タンパク質MTCL1*2を発見し報告していました(J.C.S. 2013)。今回は、そのパラログ分子(分子進化上非常に近い祖先を有する、アミノ酸配列の類似性が高い分子)の存在を報告し、このMTCL2と名付けた分子がゴルジ体上における微小管の架橋・集積に働いていることを明らかにしました(図1)。MTCL2を失った細胞では、微小管が細胞質全体に広がるようになり、ゴルジ体の集合構造の緩みが生じます。そして、(おそらく小胞輸送の乱れに起因して) 細胞が方向性を持った運動を示すことができなくなることを明らかにしました。  
今回の結果は、細胞が微小管(細胞内輸送のレール)の配向(並び方、走り方)をコントロールする上で、ゴルジ体が積極的な役割を果たしていることを初めて明らかとしました。また、MTCL1、MTCL2という、いまだ教科書にも載っていない全く新しい微小管制御因子ファミリー(図2)が存在することを報告し、それらが微小管の架橋というこれまで見つかっていなかった新しい活性を発揮していることも明らかにしました。

用語説明
*1ゴルジ体:真核生物の細胞小器官の1種であり、へん平な袋状の膜構造が重なる特徴的な構造を取る。膜タンパク質や分泌タンパク質の糖鎖修飾の場となるとともに、個々のタンパク質を適切な小胞に積み込むことによって、輸送先を選別する配送センターとしての働きをしている。
*2 MTCL1:以前、鈴木 厚教授のグループが発見した、新規微小管制御タンパク質。上皮細胞、神経細胞の微小管の配向、組織化に働いている。

論文情報
Matsuoka R, Miki M, Mizuno S, Ito Y, Yamada C, Suzuki A. MTCL2 promotes asymmetric microtubule organization by crosslinking microtubules on the Golgi membrane. J. Cell Sci. 135(11): jcs.259374.
https://doi.org/10.1242/jcs.259374

鈴木厚教授のコメント

鈴木グループではすでに、MTCL1が小脳プルキンエ細胞の軸索形成に必須な役割を果たすことを報告しており(EMBO J 2017)、実際に、MTCL1の欠失がヒト脊髄小脳変性症の発症原因となっているという報告が近年続いています。それに対し、今回報告したMTCL2は、小脳顆粒細胞の樹状突起形成に働いていることが最近の研究から明らかになりつつあります。哺乳動物にはもう一種のパラログ分子MTCL3が存在していることも明らかとなっており(図2)、今後、この新しい微小管制御因子ファミリーによる生体機能制御機構がさらに明らかになっていくことが期待されます。
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