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生命医科学研究科・中川 真由子さん、情報計算科学生物(CBI)学会2022年大会でエクセレントポスター賞を受賞

2022.11.16
  • TOPICS
  • 研究
  • 学生の活躍

人工イオンチャネルのイオン選択性のメカニズムを理解するシミュレーション ー幅広い分野への貢献が期待ー

生命医科学研究科博士前期課程2年の中川 真由子さん(指導教員:池口 満徳教授)は、2022年10月25日(火)〜27日(木)にタワーホール船堀(東京都江戸川区)で開催された情報計算科学生物(CBI)学会2022年大会においてポスター発表を行い、エクセレントポスター賞を受賞しました。
受賞者
生命医科学研究科博士前期課程2年
中川なかがわ  真由子   まゆこ さん

指導教員
池口 満徳教授(生命情報科学研究室)
 
論文題目 
「QM/MM simulations of artificial ion channel in membrane-water system」

(和訳:膜水系における人工イオンチャネルのQM/MMシミュレーション)

発表内容

—中川さんに研究論文の内容を解説していただきました。

近年、生体分子機能を模倣した人工分子機械の開発が進んでいます。生体分子の機能を理解し、その機能を模倣した人工分子の自在な合成が可能となれば、幅広い分野への貢献が可能になると期待されています。最近、自然界に存在するカリウムチャネルにヒントを得て、環状の人工イオンチャネルCFF が開発されました。
CFFは、フッ素化芳香族ユニットを含む2つの剛体部分と、それらをつなぐリンカーから構成されています。実験によると、CFFは膜を隔てて陽イオンを透過させ、カリウムイオン選択性を示しています。
本研究では、膜水系におけるCFFのチャネル構造を原子レベルで明らかにするために、GENESIS*1に実装されたQM/MM*2を用いて、分子シミュレーションを実施しました。QM/MMでは、反応を詳細に見たい部分は量子化学計算で、それ以外の部分は古典力学で扱います。
シミュレーションの結果、ポア中心のカリウムイオンとフッ素化芳香族ユニットの間に特異的な相互作用が観測されました。カリウムイオンは4つのフッ素化芳香族ユニットに囲まれ、芳香環の面ではなく、8つのフッ素原子と相互作用していました。また、カリウムイオンとナトリウムイオンでは、ポア入口で異なる相互作用様式が観察されました。カリウムイオンは完全に水和しておらず、フッ素原子との相互作用を維持していた一方で、ナトリウムイオンはCFFから完全に解離し、ポア中心を除いて水分子と水和していました。これらの異なる相互作用様式を比較すると、イオンとフッ素原子、イオンと水分子の相互作用強度のバランスによって、イオン選択性のメカニズムが理解できると考えられます。
この成果は、論文(Sato, K. et al. J. Am. Chem. Soc., 2022, 144, 11802-11809; Correction: 13983-13984)で発表されました。
1 GENESIS:理化学研究所で開発されている分子シミュレーションシステム。 (Jung, J. et al. WIREs Comput. Mol. Sci., 2015, 5, 310–323Kobayashi, C. et al. J. Comput. Chem., 2017, 38, 2193–2206 )

2 QM/MM:相互作用など詳細に解析したい部分は量子化学計算(QM)で、それ以外の部分は古典力学計算(MM)で扱う計算手法。GENESISでのQM/MMの実装は論文(Yagi, K. et al. J. Chem. Theory Comput., 2019, 15, 1924–1938Yagi, K. et al., J. Phys. Chem. B, 2021, 125, 4701–4713)を参照。

中川 真由子さんのコメント

この度は名誉ある賞をいただき、大変光栄に思います。発表にあたり、日々ご指導くださった池口教授をはじめ、浴本助教、山根上級研究員、生命情報科学研究室の皆様、さらに共同研究者としてお力添えをいただきました東京工業大学の金原教授、佐藤助教に深く感謝申し上げます。学部からの研究生活を通して、私にとって対面での発表の機会自体が貴重なものでした。対面であるからこその議論を多くの専門家の方々と交わすことができ、非常に有意義な時間となりました。本学会での受賞を励みとして、残りの研究生活をより精進していきたいと思います。

指導教員 池口 満徳教授のコメント

中川さんは、学部生の時代から、人工イオンチャネルの分子シミュレーションに取り組んできましたが、その苦労が実った成果だと思います。様々な方法を試行錯誤して、少しずつ問題を解決していき、よい成果が得られたように思います。この研究は、実験と計算がうまく連携したものです。この研究で培った経験を、今後の社会人生活に活かしていただきたく思います。
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